生活文化に親しむ秋
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茶室はタイムマシン?

2023.11.28

畳2枚サイズの部屋

畳2枚。これが最も小さい茶室のサイズです。
大人がゴロンと寝転がり、手足を伸ばしてちょうど収まるくらいの広さ、といえば分かりやすいでしょうか。


このサイズの茶室でもっとも有名なものは、京都からもほど近い、大山崎にある国宝の茶室・待庵(たいあん)。
千利休の指導により建てられたとされています。

この約2メートル四方のあなぐらのような部屋の中に、最低でも亭主・客の2人が入ります。
普通に座れば互いの胴は1メートルにも満たない距離にあり、腕をスッと伸ばせば相手に手が届いてしまいます。

一体、どんな理由があってこんなに小さくしたのでしょう。

モノとコト

茶の湯文化の大きな特徴のひとつは、500年近く前に作り上げられた文化にも関わらず、
それが作られた当初のモノとコトの両方が、今もセットで残っている点です。

例えば、千利休の作らせた茶室や茶碗、彼の保有していた他の道具(=モノ)が残っており、
かつそれをどのように使い、何をしていたか(=コト)が分かっている、ということです。
これはある意味、タイムマシンのようなものです。
というのは、今に伝わるモノを使い、コトを起こせば、当時の状況をかなり忠実に再現できるからです。秀吉が体験したであろう茶の湯を、現代の人も同じように体験することが可能というわけです。

茶室と道具

二畳の茶室・待庵に、同じく利休の指導により生まれた樂茶碗を置く。
そこで起こるのは、茶室のもつ暗がりに、茶碗の黒色がスーッと溶けていくような感覚だといいます。

土で作られた茶室の壁は、いくつかの角が消されるように丸く塗り回されています。
隅っこがはっきり見えないと、人の距離感は狂うものです。
それは、黒く、土でできた茶碗の中を覗き込んだ時と同じ感覚です。

距離感がおかしくなり、狭いはずなのに広くも感じる茶室の中で、茶碗は部屋の暗がりに消え、亭主と自分の体は互いの呼吸を感じるほど近くにある。自分の中身があらわになってしまう。
利休はもしかしたら、そんな状況を作りたかったのかも知れません。

茶室の楽しみ方

茶室の楽しみ方・鑑賞方法は様々ですが、その外観を見て楽しむというより、中での体験を楽しむことに重点が置かれた建築といってよいでしょう。お寺などでお茶室があれば、可能な場合はぜひ中に入り、少し座ってみて下さい。

荷物は外に置いておき、体ひとつで入るのがおすすめです。

どこに窓が切られていて、光はどのように入ってくるのか。
土壁の質感や色合いはどんな雰囲気か。
どのような構成になっているか。

そしてこれらから、どんな印象を受けるのか。空間から受ける情報を、体全体で楽しんでみて下さい。

現代の茶室

現代では、建築家やアーティストが作品として茶室を作ることも増えてきました。

「湯を沸かして茶を飲む」ということが最低限成立すればいい小さな建築、という見方をすれば、比較的容易に建てられる自由度の高い建築です。

こういった特徴から、常設しないことを前提に作る場合も多く、作品としてイベントや展覧会で発表する機会もままあります。歴史的な側面とあわせ、日本だけでなく、各国の作家のインスピレーションを刺激するようです。

時代や作者の雰囲気、個性、美意識を閉じ込める器、という目で過去の茶室と比べて見てみるのも面白そうです。

©2023 陶々舎 中山福太朗

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