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空間と五感を整える「お香」の効能

2023.10.04

茶の湯に欠かせないお香の役割

お香もまた、茶の湯に欠かせない要素のひとつです。炭の匂いを和らげるといった用途の他に、茶室を香りによって浄化し、客に場面転換を印象付ける役割もあります。通常、香は炭点前(炭をつぐお点前)の中でたきますが、炭手前を都合で省略する場合には、香合(こうごう)という容器に香が入れられ、掛け軸や花と共に床の間に飾られます。また、純粋に香りを楽しむため、茶席の中で香炉を回し、皆で楽しむこともあります。

茶道は大きく2つのシーズンに分かれています。5月から10月は「風炉」、11月から4月は「炉」と、それぞれのシーズンに用いる、湯を沸かすシステムの名称で呼んでいます。それぞれ使用する香の形も異なり、風炉の時期には「香木(こうぼく)」、炉の時期には「練香(ねりこう」を用います。

天然木のやさしい香りに癒される「香木」

「香木」とは木自体が香る木のことを指し、貴重な香原料として知られているものです。

香木は白檀(びゃくだん)、沈香(じんこう)、伽羅(きゃら)の3種類を指し、木片を加熱することで立つ香りを楽しみます。

白檀は甘く高貴で、静寂を感じさせる香りが特徴です。英名は「サンダルウッド」といい、香水などにも用いられる身近な香木です。沈香は樹脂とともに朽ちて土の中で熟成された貴重な木材で、スパイスのような辛さと酸味、甘さ、苦味などが複雑に絡み合った重厚感のある優雅な香りが特徴です。伽羅は沈香の中で最上級とされるもので、沈香よりもまろやかで深みのある香りだといわれています。

香木の香りは自然の恵みであり、天然木ならではのやさしい香りは、疲れた心や身体を癒してくれます。

亭主の好みと心遣いを伝える「練香」

「練香」は刻んだ香木などの原料を蜜などで練って丸く固めたものです。香木同様、直接火をつけるのではなく、香炉の灰の上に置き、温めて香りを楽しみます。様々な原料を配合して作るため、香木よりも香りの種類が多く、配合により香りが変化するため、亭主は好みの香りを茶席に用います。冬を中心とする「炉」の時季に焚く練香には、総じて甘くて温かな香りが多いです。にじり口を開けて茶室に入るとき、ふっと香るお香は、客に季節や亭主の心遣いを伝えてくれます。

お香には10の徳がある

「香十徳(こうじっとく)」という言葉をご存知でしょうか。お香にはさまざまな効能があると昔から伝えられており、その効能を分かりやすくまとめたのが「香十徳」です。これは室町時代に一休宗純こと“一休さん”が広めたことでその魅力が知られるようになったと言われています。「香十徳」は10の四文字熟語で表現されていますが、大まかには次のような内容になります。

「感覚を研ぎ澄まし、心身を清らかにし、穢れ(けがれ)を取り除き、眠気を覚まし、静けさの中に安らぎをもたらし、忙しい時にも心を和ませ、多くても邪魔にならず、少なくても十分に足り、年月を経ても朽ちず、常に用いても障りがない」

500年以上も前に表されたお香の効能が、現代まで受け継がれていることを教えてくれる言葉であり、お香の普遍的な魅力を伝えています。そして、お香は忙しい現代社会を生きる私たちこそ取り入れるべきものだと教えてくれる言葉です。「香十徳」については、いろんなサイトでも解釈が紹介されているので、興味のある方は調べてみてくださいね。

香木や練香を焚くのはハードルが高いかもしれませんが、線香タイプのものなど、手に入りやすいものから取り入れてお香の効能を感じてみてください。空調を入れて締め切った室内でお香を焚くのがためらわれる場合は、短めのお香を選び燃焼時間を短くするのがおすすめです。他にも、火を使わない文香(ふみこう)や匂い袋など、用途に合わせて選べます。最近では、お香を立てる「香立」や「香皿」など、デザインも豊富なので、自分の興味に合わせて暮らしに香りを取り入れてみてはいかがでしょうか。

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