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生活の中の陰陽

2023.12.13

陰と陽?

「陰陽思想」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
これは中国の古代思想で、世界のすべてを陽と陰の二つに分けて考える思想のことです。

陰陽と言われると、陽が良いことで、陰は悪いことなのかな・・・という印象を持たれるかも知れませんが、そうではありません。
陰陽思想では、この二つは互いにバランスを取りながら絶えず動き続けていて、押し引きを繰り返しながら、決してどちらか一方になることはない、という見方をします。

日が昇り、沈み、月が出る。明るかった世界は暗くなる。燃え盛る火は水により消える。
こういった現象から、対となる性質を持つものを分けたのです。

 陽=太陽、明、火、男、円

 陰=月 、暗、水、女、方(四角)

どちらかが良い・悪いというものではないですよね。

バランスをとる

陰陽思想は、対になる現象の「発見」から、その「使用」にも派生します。
人が行う事柄の中に、その調和を組み込もうとしたのです。

具体的には、街や建物の作り方、占い、儀礼、物語、料理など、その影響はとても広い範囲に及びました。

陰陽師のお仕事

この思想は中国だけでなく、日本にも飛鳥時代には伝わっていたようです。
陰陽思想、五行思想をもとにした天文、暦、時計、易などの学問・占いは、それを専門に扱う公職、「陰陽寮」によって扱われるようになります。

陰陽寮に所属した陰陽師は、小説や漫画、映画の題材にも取り上げられたことがあるので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
鬼や悪霊を退散!というヒーローのような描かれ方をする彼らは、いち公務員だったのです。遷都の際には、都の場所や方角の決定にも携わったとされています。

身近な陰陽

陰陽寮の技術や知識は当初、国家機密として扱われていましたが、時代が降ると徐々に民間にも浸透していきました。
そして様々な分野のモノの配置や行為の順番、その決定に影響していくことになります。

例えば料理の分野。

日本料理の片刃の包丁は、上から見て右側、刃を研ぐ方を陽、その反対の真っ直ぐな面を陰とします。

マグロのような平造り(直方体のようなカット)は、柵取りした身の右側から包丁を引いて切り分けていきます。
すると、お造りになる部分は包丁の右=陽の側が当たるため、その身は陽。それを載せるお皿は方(四角)=陰のものを選びバランスを取る、という具合です。

ちなみに、薄造りは身の左側から包丁を引くので、身は陰、載せるお皿は陽たる円、となります。

もっと身近な例で言えば、食卓の上のご飯とお汁の位置関係。皆さんはどのように置きますか?
日本料理としての正解は、食べる人から向かって「ご飯が左・お汁は右」。
米は日本人の主食。ゆえに陽の方・・・なのですが、なぜ左が陽?

これは皇帝の座る向き、都の配置に関係しています。
皇帝は都の北方にある建物で、南に向かって座ります。平安京のレイアウトもそのようになっていますね。
そうすると、南を向いた皇帝の左手側、東から太陽=陽が昇ります。これが左=陽、という理由です。

陰陽については、あまり考えすぎてがんじがらめになっても窮屈ですが、どういったものが陰陽の対になっているかを知るのは単純に楽しいものです。
調和を取る知恵として発達した陰陽の思想、普段の生活にちょっとでも取り込んでみると、手元の小さな世界のバランスを取っている気持ちを味わえそうです。

©2023 陶々舎 中山福太朗

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