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着物も服です!

2023.11.30

衣替えの歴史

今年は暖かい日が秋口まで長く続きましたね。急に寒くなったせいで、慌てて冬服を出した方も多かったのではないでしょうか。

ひと昔前の学校や制服のある会社では、10月に入ると冬服に衣替えするのが一般的でしたが、 昨今ではその移行期間を長く設けたり、タイミングを個人の判断に任せたりするところも増えてきているようです。

夏から秋、さらに冬へと季節が進む中で、もうそろそろ暖かい服を出そうかな、と思うのは、昔も今も変わりません。
これを日付を決めて行う習慣は、平安時代に唐から入ってきました。

旧暦の10月1日に夏から冬の装束へ、4月1日に冬から夏の装束へ着替えるこの習慣を「更衣(こうい)」と呼び、当初は宮中の行事として取り入れられます。

時代がくだると、装束のみならず、御簾や畳などの調度品も取り替える大掛かりな行事となりました。
上流階級の習慣は、他の階級にも影響します。武家や民間にも、季節ごとに衣替えをする習慣が広がっていきます。

江戸時代の衣替え

たとえば江戸時代には、幕府へ出仕する際の服装が季節ごとに細かく決められました。

回数も増え、なんと以下のように年4回の衣替えが制度化されます。庶民もそれにならったため、なかなか忙しかったでしょうね(以下、旧暦の表記です)。

・4月1日~5月4日 : 袷(あわせ、裏地付きの着物)
・5月5日~8月末日 : 帷子(かたびら、裏地なしの着物)
・9月1日~9月8日 : 袷
・9月9日~3月末日 : 綿入れ(袷の着物に綿を詰めたもの)

当時は今のように気軽に新しい服を買えない時代。特に庶民は季節ごとの服をすべて持てるわけではありませんでした。
そのため、多くは衣替えのたびに手持ちの着物を一度ほどいては縫い直し、着回しをしていました。大変ですね・・・

着物の着分け

上記のような衣替えの習慣は、着物に色濃く引き継がれています。
現在では以下の4つのシーズンで着分けられています(以下、新暦)。

・10月~5月 : 袷
・6月    : 単衣(ひとえ、裏地なしの着物)
・7月~8月  : 薄物(うすもの、裏地なし&密度を粗くした涼しい素材の着物)
・9月    : 単衣

着物にはルールがたくさんあって難しそう、というイメージの一端は、この着分けにもありそうです。

どんな着物を着ればいい?

候に応じた服装をしよう、という現代の一般的な感覚とは違う考え方で服装が決まるのは、なんだか押しつけられているように感じるかも知れません。住んでいる地域やその年ごとの気候によっては、10月からは袷で、という着分けが馴染まないこともあるでしょう。

そもそも服の役割は、体を外の環境から守るものです。
しかしそれだけではなく、自身の所属を表したり、グループの団結を強めたり、個性を表現したり、と様々な役割を持つものです。

この役割は、場面に応じてその優先度が変わります。例えば冠婚葬祭などの儀礼的な場に参加するときには、参加者自体がその場を作る役割を担うため、その服装も一定の形式を求められるでしょう。

着物も服です。

服としての様々な役割を考えて、状況に応じて柔軟に着るものを選ぼう、という見方をすると、着物にも少し親しみやすくなるのではないでしょうか。

©2023 陶々舎 中山福太朗

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