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茶席の「掛物」の意味と「筆を持つ」ということ

2023.11.07

茶席の掛軸

掛軸、と聞くとどんなイメージを持たれるでしょうか。旅館の床や、お寺に掛けられている姿を思い浮かべるかもしれません。また、茶席には掛軸を使うことをご存じの方も多いでしょう。

掛軸とは、絵や文字を書いた紙や絹布を、布や紙で装飾(表具(ひょうぐ))したものです。油絵などの額装と異なるのは、くるくると巻いて保管できる形であるという点です。

茶席において、掛軸は非常に重要な道具のひとつです。そこに表現された絵や文字の姿、その意味、書いた人物など、他の道具に比べ大量の情報を含み、その茶席のテーマを語る際に欠かせないものだからです。

掛軸は二ヶ所に掛けられます。ひとつは待合(まちあい)、もうひとつは本席です。

待合とは、客が本席に入る前に滞在する部屋のことです。こちらには、絵や和歌など、その日の茶会の導入となり、かつ軽やかなものを掛けます。

本席はお茶を頂く部屋のことです。こちらには、その日のテーマを示すようなものが掛けられます。

時代によって、どのような掛軸が茶席で好まれるかは変化していますが、現在掛けられる掛軸は、どういったものでしょうか。ここでは簡単に、待合、本席の掛軸についてご紹介しましょう。

【待合】

① 何が書かれて(描かれて)いるのか?

四季折々の自然の景観や行事を題材に、絵や詩歌をさらりと描いたものが好まれます。

②誰が書く(描く)のか?

画家や歌人がその作者であることが多いですが、禅僧や流儀の家元、過去の名のある茶人などが書いた(描いた)ものも使われます。

【本席】

① 何が書かれて(描かれて)いるのか?

こちらは待合に比べてどっしりしたもの(ビジュアルの印象が強かったり、時代が古いもの)を掛けます。具体的には、禅語や手紙などです。

禅語は、過去の禅僧たちによる禅問答や、禅的なニュアンスを含む漢詩の一部を抜粋したものです。それらを大きく書いたものは一行物と呼ばれ、茶席で好んで掛けられます。

②誰が書く(描く)のか?

禅語は禅僧、流儀の家元のものが好まれますが、手紙は茶会のテーマにちなんだ、歴史上の人物によるものも掛けられます。

上記の例は、「こうである」ということを規定するものではありません。亭主の思いや流儀の好みによって、何を掛けるかは様々です。しかしいずれも、亭主に思い入れのあるものが選ばれるため、選んだ理由にまつわる話を聞くことは、茶会の楽しみのひとつです。

筆をもつこと

筆記用具がほぼ筆だけであった時代と異なり、現在は様々な方法で絵や文字を表すことができるようになりました。墨を磨り、手紙をしたためる・・・といったことは普段なかなかしないまでも、筆で文字を書く習慣は、祝儀袋や芳名帳など、今も様々なところに残っています。

茶席で掛けられる書画のようには書けないまでも、名前や住所など、筆でよく書く文字を美しく書けると、いざ!というときに気持ちのよいものです。また、筆で書かれた封筒や便箋を受け取ると、そのためにかけてくれた時間や背景まで頂いたような気持ちになります。

美しい字が書けることは大切ですが、そうでなくても筆を握り、書き間違ったり失敗しながらも書いてみると、思わぬ発見があるものです。

京都には書の道具を扱うお店がまだ多く残っています。

筆ペンからでも構いません、今年の年賀状やお年玉のぽち袋は、筆で宛名を書いてみてはいかがでしょうか。

©2023 陶々舎 中山福太朗

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